歴代興行収入トップのコメディ『Viva!公務員』など、珠玉のイタリア映画特集


【Viva! イタリア vol.3】

5月27日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか連続ロードショー
『Viva! 公務員』 原題:QUO VADO?
監督:ジェンナーロ・ヌンツィアンテ
脚本・原案・音楽・主演:ケッコ・ザローネ(ルカ・メディチ)
『日々と雲行き』 原題:GIORNI E NUVOLE
監督・共同脚本:シルヴィオ・ソルディーニ
主演:マルゲリータ・ブイ アントニオ・アルバネーゼ
『マフィアは夏にしか殺らない』
原題:LA MAFIA UCCIDE SOLO D’ESTATE
監督・脚本・原案・主演:ピエルフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)

イタリア映画の50、60年代は黄金時代でした。『道』(54)、『甘い生活』(60)のフェリーニ、『若者のすべて』(60)、『山猫』のヴィスコンティ、『無防備都市』(45)のロッセリーニ、『自転車泥棒』(48)のデ・シーカ、『さすらい』(57)のアントニオーニ、『激しい季節』(59)のズルニーニ、『汚れなき抱擁』(60)のボロニーニといった名匠の生み出した、ネオレアリズモ、愛の不毛と呼ばれる作品、庶民を描いたコメディ、どれも作家性と娯楽性がバランスよく融合した傑作揃いでした。
60年代半ばから『荒野の用心棒』(64)のセルジオ・レオーネらのイタリア製西部劇が席巻、そして社会派のフランチェスコ・ロージ、エリオ・ペトリらが登場。70年代から『ジェラシー』(70)、『特別な一日』(77)のエットーレ・スコラ、『ポケットの中の握り拳』(65)のマルコ・ベロッキオ、『木靴の樹』(78)のエルマンノ・オルミ、『赤いシュート』(89)のナンニ・モレッティの時代になり、2000年に入って現役のモレッティ、ベロッキオに加えて『輝ける青春』(03)のマルコ・トゥリオ・ジョルダーナが台頭します。
そして現在のイタリア映画は、今回紹介するケッコ・ザローネの『Viva! 公務員』など3本の多様な作品で知ることができます。これらの作品は、ネオレアリズモとコメディ、社会派といったイタリア映画の流れを汲み、庶民や家庭を描いています。CGアクションやコミックの映画化といった、ハリウッドの一過性の消耗商業映画と一線を画しているのは明らかです。
ここでは「Viva! イタリア vol.3」上映作品のうち、2本の作品を紹介します。

『Viva! 公務員』

本作は、イタリア歴代興行収入トップの記録を打ち立てた、ルカ・メディチ(ケッコ・ザローネ)脚本、音楽、主演のコメディです。
日本の公務員は、リストラも倒産もない職業といわれ、希望就職先のトップになっていましたが、近年は民営化により公務員から民間企業のサラリーマンになってしまうという事態も起きています。

イタリアも、公務員は終身雇用制なので、生涯収入が安定した職業です。ですが、イタリアも公務員削減の波が押し寄せ、本作の主人公ケッコもその対象に。早期退職を促されますが、こんなおいしい職業、手放せませんと、頑として応じません。リストラ担当の部長(ソニア・ベルガマスコ)はケッコに辺鄙な離島への異動を命じますが、そこの暮らしに適応。それなら、と北極に異動を命じれば、観測所の美人研究員とラブラブに。有給休暇を取得してノルウェーの彼女の家に転がり込み、幸せを満喫。怒り心頭のリストラ担当部長が乗り込んで、退職届を出せと迫る事態に。ところが部長も、研究員も、ケッコもハッピーエンドという思わぬ展開。主人公ケッコは、デ・シーカ作品のソフィア・ローレン、モニチェリ作品のマストロヤンニのような、強かで逞しく生きるイタリア人気質を思わせます。ケッコの不屈というか、柳に風のキャラクターが受けて、大ヒットしたのではないでしょうか。

本作が巧いのは、アフリカのジャングルにやってきたケッコが原住民に捕まり、身の上を語り出すという始まり方。ケッコが親と一緒に暮らしていると話すと、原住民一同、子供までが嘲笑します。集団生活している原住民が、親から自立していないケッコを笑うのがおかしいですね。異動先での仕事も楽しんでしまうケッコ、6カ所の赴任先はイタリアの端から端まで旅することになります。リストラ担当の部長が執拗にケッコを過酷な異動先に送りますが、部長も美人で憎めないキャラにしています。観測所の美人研究員の影響で、ケッコが人間的に成長していくのですが、説教臭さはありません。わが国初お目見えのケッコ・ザローネ、ただものではありません。日本でもブレイクするでしょうか。

『日々と雲行き』

フランス映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』でも、失業者が必死に仕事を手に入れる経緯が描かれていましたが、このイタリア映画も夫の失業で家族が壊れていきます。
夫は経営者だったというプライドがあり、どうしても仕事を選んでしまい、なかなか就職できません。経済的に行き詰まり、豪邸もヨットも手放し、団地に引っ越してきます。ようやく、何の仕事でもいいと考えるようになり、団地住民の部屋の改装を引き受けるようになりますが、一緒に改装を手掛ける失業者仲間は仕事が見つかり、彼一人になってしまったので、仕事を投げ出してしまいます。新しい仕事を見つけ、宅配便のバイクに乗っているところを娘に見られ、遂に失業を知られ、家族は大騒ぎになります。
妻はフレスコ画修復の研究に熱心ですが、夫の収入に支えられていたからこそ続けられたのです。夫の失業によりフレスコ画の研究を諦め、昼夜働くことになった妻が、面接をドタキャンして家でゴロゴロしている亭主に怒るのは当然とはいえ、家族は崩壊寸前。それでも家族は修復を図り、そして修復されたフレスコ画が祝福を受けるような結末を迎えます。
監督のシルヴィオ・ソルディーニはドキュメンタリー出身だけに、人物観察と構成力がしっかりしており、イタリアネオリアリズモの流れを引く、社会性に立脚した見応えのある作品となっています。

オフィシャルサイト : www.vivaitaly3.com

:伊藤 孝

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