~90年早く目覚めた2人の壮絶な運命。 目的地の惑星まで120年。豪華宇宙船という密室でいかに生き延びるか~


パッセンジャー

3月24日公開 原題:PASSENGERS
(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給)

孤独を好む人がいる。煩わしい人間関係を絶ち、本を読み、音楽を聴き、家庭菜園などの趣味に没頭する。そういう日々を送る機会があれば、是非とも肖りたいものだ。
しかし、人間はどれくらいの時間を孤独でいられるだろう。孤島に流されたとしても、島中を動き回ることが出来るから、数年は耐えられそうだ。だが、限られた広さの宇宙船に90年も一人で暮らさなければならないとしたら、絶望感で発狂してしまうかもしれない。
映画『パッセンジャー』は、そういう状況下に置かれたジムという宇宙船の乗客から始まる。

5000人の乗客を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号は、新たなる居住地を目指し地球を後にした。
目的地の惑星到着まで120年。その間5000人の乗客は宇宙船内の人工ポッドで冬眠していた。しかし機能トラブルによりエンジニアのジム(クリス・プラット)だけが目覚めてしまう。惑星到着まで90年も残されていた。このまま宇宙船の中で、自分だけが歳を取り、死んでいくしかないのか。絶望感を癒してくれる唯一の話し相手はアンドロイドのバーテンダー(マイケル・シーン)だ。しかし、アンドロイドは話し相手にはなるが、役に立つ情報は与えてくれない。

こうして1年が経った。2年目に乗客のオーロラ(ジェニファー・ローレンス)が目覚め、ジムは話し相手が出来、恋愛感情も生まれる。しかし仲違いすることになり、オーロラとの関係は最悪になる。ところが宇宙船のシステムが故障、冬眠する5000人の生命維持が危うくなる。その命運は二人に委ねられ、拗れた関係も修復に向かう。2人は責任というより使命、運命として事態を受け入れ、命がけのシステム復旧作業に対峙するのだ。

監督は『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥム。宇宙船内という密室を舞台に、人間の孤独、使命という普遍的なテーマを主軸にした雄大なスペース・スペクタクル・ロマンを作り上げた。

それと、本作の隠し味はジェンダーだ。男と女。男は女に癒しを求める。しかし窮地に追い込まれたとき、男は一人では行動できない。男の勇気を奮い立たせ、希望を持たせるのは女性なのだ。そう、この映画はバディ・ムービーでもあったのだ。

本作の宇宙船内のデザインは美しく、宇宙船の造型は『2001年宇宙の旅』(68)から『サイレント・ランニング』(72)『ゼロ・グラビティ』(13)『インターステラー』(14)を経て本作の美に到達した。その冷ややかで静かな船内のバーは『シャイニング』の不吉さを思わせる。

それにしても『ゼロ・グラビティ』など、スペース・アドベンチャーのヒロインはみんな強い。やわな根性では宇宙空間で生きてゆけないのだ。

:伊藤 孝

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