「心を手放す」 瞑想の勧め  相模女子大学 石川勇一教授に聞く

ブランシュシュの大きなテーマは、女性の「転機」。
結婚や出産、キャリアチェンジなど、今を生きる女性たちには、様々な転機が訪れます。
自然に自由にわがままに自分の人生を選び、生きるための知恵やヒント、そして気づきが得られるように、様々なジャンルで活躍している方からのメッセージをお届けします。

このごろ、女性たちがひと時の安らぎを得るため、様々な場所で座禅や写経、そして瞑想などを経験する話をよく聞きます。

瞑想とは、どんなものなのか?
瞑想をすると、どんな効果があるのか?

今回のゲスト、相模女子大学 人間社会学部 人間心理学科の教授であり、セラピスト、そして修行者でもある石川勇一教授にお話をお聞きしました。

心理療法家をめざすきっかけとなったのは?

青年期になかなか進路が決まらずに、暗中模索していた時期がありましてね。その当時読んだ本の中に、有名な精神科医で昭和初期に活躍した森田正馬博士※の本があったんです。その本に僕自身がすごく救われました。森田博士はお寺で座ったこともあり、禅の影響を受けている人でした。森田博士の本を読んで「これはすごい!」と思い、僕が心理学をやる決定打になりました。

それとユング※の自伝を読んで、これは一生を懸けるに値する仕事だとも思いましたね。僕は何事に対しても飽きっぽい性格なので、他の仕事はきっと飽きてしまうだろうなと思っていたんです。でも、人間の深い意識をみていくことには、ずっと意味を感じ続けられるだろうと思い、それで心理療法家※になったんです。

※森田正馬 精神科医。神経質に対する精神療法「森田療法」の創始者。
※ユング  スイスの精神科医、心理学者。分析心理学(ユング心理学)の創始者。
※心理療法 サイコセラピーともいう。

小さいころはどういったお子さんでしたか?

そうですね~。(笑)気が弱く、争いが嫌い。そして自然が好きな子ども、だったかな。
そういえば、小学校1年生の時に友達を呼んで誕生パーティーをしたことがありました。ケーキの前でみんなでピースをして撮った写真があるんですが、僕のお誕生日なので、僕が真ん中にいるのが普通だと思うんです。でもどうしたわけか、一番端っこに写っているんですよ。それも申し訳なさそうな顔してね。(笑) そういう子どもでしたね。

そういうところは今も変わっていません。自己主張の強い人が前に前にと出てくる世の中には、いまだに生きづらさを感じます。それが今、セラピストをやっている理由かもしれませんね。セラピストって、表に出るというより黒子みたいなところがありますでしょ。そこに居心地の良さを感じているんです。
それと、クライアントでいらっしゃる方には激しい生存競争から離脱している人がいます。僕自身は、むしろそういう方に共感を持ちやすいんですよ。そういった人は心が綺麗な方も多いですからね。(笑)

定期的に瞑想会をされていますが、瞑想をはじめるきっかけは?

これといって大きな理由があるわけではないんですよ。そうですね・・。きっかけと言えるものがあるなら、学生時代に後輩に誘われてアシュラム※といわれるヨーガや瞑想をやっている所に行ったことでしょうか。皆さん真剣に瞑想していましてね、素晴らしい所だと思いました。そこで瞑想の心地良さをはじめて知りました。それもただ心地良いだけではなくて、色んなことを経験しました。たとえば、アシュラムにはフランス人のリーダーがいたんですが、当時僕はあまり語学が得意ではなかったのです。だから、そのフランス人のリーダーが言っていることが、ほとんど分からなかったんですよ。英語でレクチャーされても分からないことが多かった。でも、「分かりたい」「伝えたい」と真剣に念じると、こちらの想いが通じるんですよね。だからそのフランス人のリーダーから、僕が欲しい思う答えが全部返ってきました。これはテレパシーというものかな?って思うこともありました。そういう経験をとおして、瞑想には心理学では説明できない何かがあると思ったんです。そこからはいろいろな本を読んで勉強しました。そのころ、海外の心理学に関する本がいろいろと入ってきたころだったんですが、その中に「トランスパーソナル心理学※」というのがありました。
それを読んだ時に、「これは、すごい!」って思ったんです。それが、瞑想を始めるひとつのきっかけになりました。

※アシュラム ヨーガや瞑想などを行う、精神的修行の場。
※トランスパーソナル心理学 1960年代に展開しはじめた心理学の新しい潮流で、行動主義心理学、精神分析、人間性心理学に続く第四の心理学。 人間性心理学における自己超越の概念をさらに発展させたとされる。
(Wikipediaより抜粋)

瞑想について教えてください。

ヴィパッサナー瞑想。
「今、ここ」で「感じた」ことのプロセスをそのまま、ありのまま見続けることです。

「感じる」とは、五感と心で感受するということです。
五感での感受された情報に対して、心の中で好き嫌いが生じて、好きなものにはある種の執着や好感を持ち、手に入れたいと思います。
反対に好きじゃないものに対しては、嫌悪感がわいてきて離れて欲しいという気持ちになります。
あるいは、五感を通して入ってきた情報に、それがいいとか悪いとか、苦しみだとか楽だとか、好きとか嫌いとかの感情の判断作用が働いて、そのあとに、より深い感情が起きてきます。

心のヴィパッサナー瞑想では、このような内面のプロセスをよく観察するのです。

※ヴィパッサナー瞑想 「ものごとをありのままに見る」という意味のヴィパッサナーは、インドの最も古い瞑想法のひとつです。(日本ヴィパッサナー協会HPより)

感覚を通して得た情報?

ただ見えたもの、聞こえたもの、臭いをかいだもの、味わったもの、さらに皮膚感覚が刺激されて受け取った情報のことです。

「今、ここ」で自分が何を見て、聞いて、どのように感じているのかを、ただそのままじーっと見続ける。それがヴィパッサナー瞑想です。
瞑想を続けていくと、いつからか感情には流されなくなります。最終的には好きとか嫌いという感情も手放せるようになります。もちろんすぐにそれができるようになるわけではありません。感情を手放すって、とっても難しいことですからね。

感情を手放す?

マインドフルネス※という言葉が今流行っていますね。
マインドフルネスのひとつのポイントは、好きなものへの執着と嫌なものに対する嫌悪、これが起っていることを観察し、受け入れ、そして、それを手放していくことなんです。
それには、あるがままをじっくりと感じて観察し続けることが大切です。
というのも、僕たち人間は生きているとオートマチックな感情や判断に流されてしまうことが普通です。それによって苦しみの多い人生になりがちです。だから、そういった感情や判断を感じて、観察して手放す。それが瞑想の道です。

※マインドフルネス 今この瞬間の自分の体験に注意を向けて、現実をあるがままに受け入れること。特別な形で、意図的に、評価や判断とは無縁に、注意を払うこと。
(Wikipediaより一部抜粋)

心理療法(サイコセラピー)のプロセスとは違いますか?

瞑想とサイコセラピーはちょっと違います。
サイコセラピーの場合には、自分の人生を物語にたとえ、これまでの悪いシナリオを自分にとって良いシナリオに書き変え、新たに物語をつくるということをします。
それはものすごい破壊的なトラウマがあって、その物語や脚本から離脱するためのステップとしてはとても効果があると思います。
でも、好き嫌いという感情や執着、苦しみを本当の意味で手放すということはできません。当然悟りには達しませんから、今抱えている苦しみをすべてサイコセラピーで解決できるかというと、それには限界があります。

一方で瞑想とは、何かしらの概念や意味づけを差しはさんで物語の解釈をしません。
すべての意味付けや物語を「これは私がつくり出した妄想なんだ!」と気づき、良い物語も悪い物語もどんな条件付けも全部手放していく。そうでないと「今ここ」をありのままに見ることができませんから。

瞑想を続けると、本当に少しずつですが自分が変わってくるのがわかります。
心のくせとしての条件付けや解釈がしょっちゅう、しょっちゅう表れてきますから、そこに気づくことで、ちょっとずつそのくせから解放されていきます。

心のくせ?

たとえば、多くの人が特定の人を見ると「この人嫌い」とか、「イライラする」といった経験があると思います。実は、そういった感情がわく前に、この人はこういうことをするから悪い人だとか、この人はこういうことをしなかったから怠け者だとか、自分の心のくせから生じて特定の人を判断をしているんですよ。

瞑想では、そこで生じた感情や感覚を観察し続けます。
そうすると、その時の自分の信念が本当に正しいのか?どう機能しているのか?この判断をなくしたら、どう人が見えるようになるのか?自分の心の動きを見続けるんです。
それを続けていると、いつのころからかこれまで特定の人に覚えていた嫌悪感や怒りなどの感情もわかなくなり、判断することなく人と接することができるようになるんです。
一度何か嫌なことがあってあの人は嫌な人だと思うこと、それは自分の観念なんですよ。それらに気づいて手放していくことが、本来の瞑想の大事なポイントのひとつです。

瞑想はどなたか先生に付いて行うのが良いですか?

それが一番いいですね。そういう方がいなければ、きちんとした経典に基づいておこなうのが良いでしょうね。多くの人は、少し瞑想ができると、引き寄せの法則で願望を実現したいなどの考えを持ちがちです。ある程度それで夢を叶えることもできるかもしれないんですが、でもそれでは根本的な問題は何も解決しません。瞑想をしばらくやっているとそれに気づくと思います。
瞑想を始める動機はとっても大切です。

石川教授の動機は?

僕の動機は、悟りですね。だって、悟らなかったら人間は苦しいんですから。



この記事を書いた人
ブランシュシュスタッフ

石川勇一

相模女子大学人間社会学部人間心理学科教授
法喜楽庵/法喜楽堂代表 臨床心理士
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会会長
行者(初期仏教、修験道)

臨床歴 病院(精神科・心療内科)および開業臨床(通算20年以上)

セラピーの技法:対話心理療法、瞑想法、ダンマ・セラピー、ヒーリング、臨床動作法、スピリット・センタード・セラピー等

理論的背景 人間性心理学、トランスパーソナル心理学、初期仏教、森田療法、精神分析、ユング心理学、現象学、実存主義、エネルギー心理学、ソマティック心理学、修験道、アマゾン伝承療法、など

探究テーマ:生きることの苦しみをどう減らしていくか。悟りの心理学。

Web:石川研究室法喜楽庵/法喜楽堂

(石川勇一研究室HPより)

著書:スピリット・センタード・セラピー 瞑想意識による援助と悟り(せせらぎ出版)
新・臨床心理学事典― 心の諸問題・治療と修養法・霊性 ―(コスモス・ライブラリー)
心理療法とスピリチュアリティ(勁草書房)
修行の心理学―修験道、アマゾン・ネオ・シャーマニズム、そしてダンマへ(コスモスライブラリー)

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