イヤイヤ期のしつけを考える その5 ~「ごめんなさい」は、言わせないほうがいい~ 永瀬春美のコラム 第9回

2017.7.27
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2~3歳までの子どもが複数いれば、おもちゃの取り合いは避けられません。
強引に奪い取ったり、時には相手を叩いたり押し倒したり、そんなことが絶え間なく起こります。

その時、親がしなければいけないことが二つあります。
その場の状況次第でどちらが先でも構いませんが、どちらが欠けても「しつけ」は成功しません。

①「どうしてもそれがほしい」「ボクが使っているものを取っちゃダメ」「自分の世界を邪魔されるのは絶対にイヤ」といった気持ちはしっかりと受け止め、「ほしいのね」「取ったらダメだよね」「壊されるかと思ってびっくりしたね」などと共感を伝える。
②「だからと言って、相手を叩いたり押し倒したりしてはいけない」と、人を傷つける行動だけを厳しく叱る。

ここでもう一つ、
③相手に謝罪する  が、必要だと考える方も多いと思います。

特に相手にケガをさせてしまったり、相手が自分より小さい子(弱者)で、大泣きになってしまったりしたときに、親はあせって「謝らせなければ」と思うのが自然かもしれません。
「悪いことをしたら謝る」は、成長過程で子どもが必ず身につけなければならない社会のルールです。
教えるのは、もちろん大人の責任です。

なぜ、謝らなければいけないのでしょうか?

大人同士の争いで、謝られてもちっとも謝ってもらった気がしなくて、余計に腹が立った経験ってありませんか?
謝ることの本質は「自分の非を認めること」なので、表面的な言葉だけで「ごめん」と言われても、「本当に悪いと思っていない」「私がこんなに傷ついたことをちっともわかっていない」と感じれば許す気にはなれません。

たとえば夫婦げんかをして、わかってもらえないいら立ちが高じて相手の大切なものを投げつけ、壊してしまったら・・・
「何すんだよ! 謝れ!!」と怒る夫に、素直に謝れるでしょうか?

確かに、相手の大事なものを壊したのは私が悪い。けど・・・私の気持ちを分かってくれないあなたも悪い(私にそうさせたのはあなた)・・・

コトの本質は、互いの「気持ち」の衝突なので、「気持ちを伝え、分かり合う作業」を伴わない「ごめんなさい」は、争いの解決に役立ちません。

これまでのコラムで繰り返し書いてきたように、子どもの脳機能は未発達で自己中心です。
自分にとって大事なものを死守するのが発達段階として当然の姿なのですから、子どもの中では「私の大事なものを取る相手が悪い」のです。
謝罪を強制すれば、子どもの心は「分かってもらえないくやしさ」でいっぱいになり、反発するばかりで「反省」や「後悔」の気持ちが起こる余地がなくなってしまいます。

大人が裁判官の立場に立って「あなたが悪い」と決め、「ごめんなさい」と言わせるのは適切ではありません。

未熟な子どもの心の中に「悪かった」とか「しまった、しなければよかった」といった気持ちがわき起こるようにするには、どうしたらよいでしょうか?

《 相手を傷つける行為を「絶対してはいけない」と教えると同時に、そうならざるを得なかったやむにやまれぬ気持ちを認め、親が誠心誠意相手の子に謝る姿を見せる(お手本になる)こと 》

とても時間がかかります。
相手の親にどう思われるか、不安かもしれません。
それでも、これ以外によい対応はないと私は思います。

大人も、自分の欲求を通すために相手を叩くことがあります。
親による体罰は、ちゃんとしつけたいのに思い通りにならないわが子に対して、思い通りにさせたい自分の欲求を通すために叩く暴力に他なりません。
衝動を理性でコントロールするのは、脳機能が発達しているはずの大人でもなお、ものすごく難しいことなのです。

過ちを犯したとき、自分の非を認めて謝れることは本当に大事なしつけです。
だからこそ、とてもたくさんの手間と時間をかける《 覚悟 》が必要です。
昔から「急いては事を仕損じる(せいてはことをしそんじる)」と言われるように、幼児に形式的な謝罪をさせるのは逆効果になることを、いつも忘れないようにしたいと思います。

コラム執筆者

永瀬春美

大学教員(家族看護学)、専門学校専任講師(小児保健・育児相談など)、同校スクールカウンセラー、保育園看護師などを経て現在NPO法人 子育てひろば ほわほわ 顧問。同法人が運営する子育てひろば内でご相談を受けるほか、個別の面接相談「子育て相談室いっぽ、いっぽ」を主宰。
保護者向けの各種講座、支援者の研修や養成講習などの講師を務める。

Web : http://kosodate-soudan.net

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