映画『夜明けの祈り』は女性を救った女性、マドレーヌ・ポーリアックの実話

© 2015 MANDARIN CINEMA AEROPLAN FILM MARS FILMS FRANCE 2 CINÉMA SCOPE PICTURES

『夜明けの祈り』

8月5日(土)ヒューマントラスシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督&翻案:アンヌ・フォンテーヌ 製作:エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー 音楽:グレゴワール・エッツェル 撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ
2016年/フランス=ポーランド/フランス語、ポーランド語、ロシア語/1時間55分/アメリカンビスタ/カラー/音声5.1ch/原題:Les Innocentes/日本語字幕:丸山垂穂 提供:ニューセレクト、ロングライド 配給:ロングライド 後援:アンスティチュ・フランセ日本/フランス大使館 協力:ユニフランス

1945年、ポーランド。ドイツの撤退と入れ替わるように、ソ連軍が侵入。本作はその状況下におけるフランス赤十字の女医マチルドと修道院の実話を映画化したものである。
フランス赤十字のチームはナチ・ドイツの捕虜収容所に収容されたフランス兵、ユダヤ系フランス人などの保護、引き揚げ支援のため、ポーランドに派遣されていた。フランス人医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)もその一人だった。ある日、ポーランド人修道女がマチルドに助けを求める。遠く離れたカトリック系修道院を訪ねたマチルドが見たのは、出産間近で苦しむ修道女の姿だった。帝王切開で赤ん坊を取り出したマチルドは、他にも妊娠しているシスターがいることを知る。

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修道院長(アガタ・クレシャ)とマリア(アガタ・ブゼク)がようやく口を開く。「ソ連兵が修道院に乱入して、数日間にわたり蛮行を働き、身籠ったシスターは7人」。マチルドは助産師も手助けが必要だと訴えるが、院長はそれを拒絶、「神の意のままに」。マチルドは激務の合間を縫って修道院に通い続ける。
生まれた赤ん坊は、院長が籠に入れて養子の受け入れ先に届けていた。ある日、自分の赤ん坊を取り返そうと院長の後を追うシスターがいた。雪の残る森に消えた院長。再び現れた院長の籠に赤ん坊はいなかった。自分の赤ん坊を失ったシスターは修道院から身を投じる。マチルドに問い詰められた院長は「修道院を守るにはこれが最善だと思った」と告白すると、部屋に閉じこもってしまう。
修道院の排他的な空気は一変し、修道女たちはマチルドを受け入れるようになる。マチルドも気心の知れた同僚サミュエル(ヴァンサン・マケーニュ)の助けを借りて修道院で出産の手助けを続けるが、フランス赤十字は任務終了によりポーランドからの撤退命令が下る。マチルドは、そして母親となったシスターたちは、修道院の未来はどうなるのか。
だが、映画はなんとハッピーエンドを迎える。マチルドの提案で、母親となった修道女たちも、そして修道院に集う人々も幸せの笑顔を見せるのだ。

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本作は、スタッフのほとんどが女性(監督、脚本、撮影、美術、衣装、編集)であるが、フェミニズムに走らず、むしろ宗教の諦観主義と闘う医師というコンセプトである。
アンヌ・フォンテーヌは前作『ボヴァリー夫人とパン屋』のコメディセンスも軽さも封印、カロリーヌ・シャンプティエの冷ややかな映像が本作の厳しさを表現している。雪の森を行く修道院院長を捉えたフルショットの恐ろしさ。抱えている篭には新生児が入っている。ソ連兵の蛮行により身籠った修道女が産んだ赤ん坊は、院長が養子を世話していると言いながら、実は雪の残る森に置き去りにしていたのだ。神に見捨てられた修道院。
そしてラストの救済。初めて修道女もマチルドも笑顔を見せる。マチルドは神が遣わした天使だったのか。

自殺する修道女は本作の最も厳しく残酷なエピソードだ。キリスト教では自殺を認めていない。「神に身を捧げた女性が恥辱を被ったとしても、この恥辱を理由に自殺してはいけない」。「キリスト教徒には自殺の権利は認められていない」。「真に気高い心はあらゆる苦しみに耐えるものである。苦しみからの逃避は弱さを認めることである」としている。
自殺を罪悪とするなら、ソ連兵の蛮行、そして修道院の恥として赤ん坊を捨てた院長の罪悪は、懺悔すれば許されるのか。神に母親となることを拒絶されたわが身は神の意のままとして耐えるしかないのか。
「イノセンス(無罪、無垢)」は誰のことなのか、考え込んでしまう原題だ。

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ナチ・ドイツ占領下のポーランドを描いた映画は数多い。アンジェイ・ワイダの『地下水道』『カティンの森』、シュレンドルフの『ブリキの太鼓』などポーランド、ドイツ両国のほかに、ハリウッドでもスピルバーグ『シンドラーのリスト』、ルビッチ『生きるべきか死ぬべきか』など傑作揃いだ。しかし、戦後ポーランドにおけるフランス人女医の修道院における献身的活動を描いた作品は初めてではないか。
ソ連の戦争犯罪をポーランドが告発できなかったのは、ナチ・ドイツの戦争犯罪の大きさの前には影が薄く、ソ連はカティンの森事件もナチ・ドイツの仕業にし、ソ連がナチ・ドイツからポーランドを解放したことになっていたほどだ。本作は、そういう時代における隠れた実話を描いた感動作である。
本作のモデルであるマドレーヌ・ポーリアックは、修道院を救う手助けをした翌46年2月、ワルシャワ近郊で任務遂行中、事故死を遂げたという。
なお、本作で原案を提供したフィリップ・メイニアルはマドレーヌ・ポーリアックの甥である。

オフィシャル・サイトhttp://yoake-inori.com/

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