映画~『ルキーノ・ヴィスコンティ 生誕110年、没後40年メモリアル~イタリア・ネオレアリズモの軌跡』

「若者のすべて」「郵便配達は二度ベルを鳴らす」「揺れる大地」連続上映

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2016年はルキーノ・ヴィスコンティ生誕110年 没後40年、それを記念してヴィスコンティ回顧上映が続いています。5月には『山猫』(4Kデジタル修復版)、『ルードヴィヒ』(デジタル修復版)が、そして12月24日からヴィスコンティ初期の3本、監督第1作目の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(デジタル修復版)、2作目の『揺れる大地』(デジタル修復版)、6作目の『若者のすべて』(デジタル完全修復版)が「イタリア・ネオレアリズモの軌跡」として上映されます。また、2017年2月には『家族の肖像』の上映が待っています。

ここでは、12月24日公開「イタリア・ネオレアリズモの軌跡」の3本を紹介します。

ルキーノ・ヴィスコンティは1906年、ミラノを統治する貴族の生まれ。ヴィスコンティ家がどれほど凄いか、「映画千夜一夜」(中央公論社)の中で淀川長治、蓮實重彦、山田宏一の三氏が語っていますので引用してみます。

山田「ヴィスコンティという名前そのものが贅沢というか、子爵という意味ですよね。」

蓮實「そうそう、でも公爵なんですよね、ミラノの。公爵の爵位は十九世紀になってからオーストリアからもらったものらしい。」

淀川「ミラノのオペラ座建てたんよ、お父さんが。ミラノの人はみんな『ヴィスコンティ様』なのよ。」

蓮實「ミラノから北の方、ずうっとスイスまで、ヴィスコンティ領です。」

淀川先生の「ミラノ・オペラ座を建てた」は「ミラノ・スカラ座」のことなのでしょう。18世紀に誕生したスカラ座ですから、お父さんは建てられませんから、これは父の兄ウベルトがスカラ座の経営を引き受け、多くの資金を投じたことを指していると思われます。

そのような環境で育ったルキーノは、子どもの頃からスカラ座のヴィスコンティ家専用桟敷でオペラ鑑賞をしていたそうです。

ヴィスコンティ作品は、貴族趣味に彩られた後期作品に対し、初期は貧しい人々を描いたネオリアリズモで、作風が極端に違います。その要因は、彼が21才の時に交通事故でお抱えの運転手を死なせてしまい、その傷心を癒すため彼は北アフリカ、ロンドン、パリと旅します。パリで映画に魅せられ、ココ・シャネルの紹介でジャン・ルノワールのサード助監督兼衣装係に就きます。そして1943年、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を発表しますが、レジスタンス運動に身を投じ、「赤い公爵」と呼ばれるようになります。彼は仲間を別荘に匿った罪で銃殺刑を宣告されますが脱出に成功、連合軍が進駐するまで身を潜めることになります。ミラノに戻ってからは演劇活動に熱中、コクトーの「恐るべき親たち」、テネシー・ウィリアムズ「ガラスの動物園」などを取り上げ、高い評価を得ます。映画に戻ったのは48年で、ネオリアリズモの最高傑作といわれる『揺れる大地」を発表、俳優は素人のシチリアの漁民、脚本はなし、リハーサルをしながら素人俳優とともにセリフを作り上げる画期的手法です。

60年の『若者のすべて』は南部から北部に出稼ぎにきた一家の物語で、この作品を最後にヴィスコンティは没落貴族を描いた『山猫』(63)に舵を切るのです。そしてドイツ三部作といわれる『地獄に堕ちた勇者ども』(69)、『ベニスに死す』(71)、『ルードヴィヒ』(72)を作り、72年に心臓血栓で倒れますが、半身不随の体を車椅子に乗せ、『家族の肖像』(74)、『イノセント』を完成、『イノセント』のダビング中に自室で亡くなります。69歳。亡くなるには早い歳です。

ヴィスコンティ作品は、第1作から最後の作品まで共通しているのは、「家族の衰退」「家族の崩壊」を描いているということです。『揺れる大地』『若者のすべて』はもちろんのこと、第1作の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』もカップルの破綻です。そこを押さえてご覧になると一層興味深いことでしょう。

では、3本を製作年度順に紹介します。

ルキーノ・ヴィスコンティ生誕110年 没後40年メモリアル

『郵便配達は二度ベルを鳴らす デジタル修復版』(1942)

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© 1943 I.C.I. Industrie Cinematografiche Italiane. © 1987 Marzi Vincenzo; © 2004 MARZI Srl. All rights reserved. International Sales VIGGO S.r.l.

ジェイムズ・ケイン原作の最初の映画化。ティ・ガーネット版(46 未公開)、ボブ・ラフェルソン版(81)とも主人公の男女を悪人として描いていますが、ヴィスコンティはマッシモ・ジロッティを巻き込まれ型の犯罪のように描いています。マッシモ・ジロッティはクララ・カラマイから離れ、旅に出ますが、旅先でカラマイ夫妻と再会、夫に誘われ夫妻の家に戻り、妻カラマイの夫殺害計画に手を貸します。その時は夫が保険に入っていることを2人は知りませんでした。マッシモは保険金に執着しないものの、周囲を信用できず、密告されたと思い込み自滅します。本作は信頼と不信がテーマなのです。旅先で知り合う「スペイン人」も、クララの夫も善人で、悪人らしい人物は出てきません。

殺されるクララの夫が祭りで歌う「椿姫」も、誤解による破局という歌詞で、本作のテーマに通じる内容です。

『揺れる大地 デジタル修復版』(1948)

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© 1948 Ar.Te.As. Film, Universalia Produzione. © 1987 Marzi Vincenzo; © 2004 MARZI Srl. All rights reserved. International Sales VIGGO S.r.l.

シチリアの漁師たちは、仲買人に利益を搾取され続けていました。その仕組みを改善しようと、ウントーニは家を担保に銀行から融資を受け、自営の漁を始め、鰯の大漁で成功したかのように見えますが、仲買人の抵抗にあい、買ってもらえず、銀行から抵当の家屋を差し押さえられ、一家は離散してしまうのでした。

銀行の融資を受けても、返済が滞ると担保を取られる。これは今でも同じです。本作の残酷さは、家族の悲惨さだけではありません。漁村の人たちのための行為をみんなに理解してもらえなかったことです。仲買人の搾取から解放されても本当に収入が得られるかというリスクより、搾取されても魚を買ってもらえる安心感を選ぶ人たち。突出した行動を非難し、横並びの経営を好む現代の事業者たちと同じ構造なのです。本作はヴィスコンティがレジスタンス運動に身を投じていた頃のイデオロギーの影響が強いように思われます。

『若者のすべて デジタル完全修復版』(1960)

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© 1960 TF1 Droits Audiovisuels – Titanus

原題は「ロッコとその兄弟たち」。兄弟として殺人を犯した長男を助けるべきか、自首させるべきか。兄弟で意見が分かれます。家族は長男に食い物にされてきました。ロッコは恋人を犯され、殺されたのに、兄を追い詰めたのは自分だといって自分を責めます。だが、長男がいなくなれば家族は幸せになれるのです。その幸せの代償は兄への負い目なのでしょう。ロッコは嫌いなボクシングを足枷に生きてゆくのです。

ヴィスコンティは、本作は『揺れる大地』の続編といえるかもしれない、と語っているように、『揺れる大地』では漁村を救済しようとしますが、漁民に理解されず、すべてを失います。ロッコは兄に裏切られ、絶望の人生を歩み続けます。家族は長男シモーネを理解していなかったように、娼婦ナディアをシモーネもロッコも理解していませんでした。この家族は離散を恐れていますが、とっくに心は孤立していたのです。

本作は179分ですが、1960年公開時は140分に短縮、1990年は176分とほぼオリジナルに近い状態での公開。そして今回は失われていた3分を復元した完全版での上映です。

なお、過去2回はスタンダードサイズで上映されましたが、今回は1:1.66のヴィスタサイズ上映。撮影監督のジュゼッペ・ロトゥンノ立ち合いでのデジタル復元版作製ですから、これが正しいサイズだったのです。上部の空間がなくなってすっきりした構図になっています。

「ルキーノ・ヴィスコンティ生誕110年 没後40年メモリアル」

配給:アーク・フィルムズ、スターキャット
公開:12月24日(土)より新宿武蔵野館にて3作連続ロードショー
12月24日より『若者のすべて』 2017年1月7日より『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 1月21日より『揺れる大地』

そのほかの地区でも順次公開。

※従来、ルキノ・ヴィスコンティと表記されていましたが、本特集ではルキーノ・ヴィスコンティが正確な読みとして取り入れているので、ここではその表記に従いました。

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