親子で、カップルで観たい。心に残るアニメ『夜明け告げるルーのうた』


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©2017ルー製作委員会

『夜明け告げるルーのうた』

配給:東宝映像事業部 5月19日(金)全国ロードショー

監督・脚本:湯浅正明

脚本:吉田玲子

VC:下田翔大 谷花音 篠原信一 柄本明 寿美菜子 斎藤壮馬

昨年は大人向けのアニメが話題になりましたが、本作は親子で、カップルで、友人同士で楽しめるアニメです。10代、20代を中心にしたつくりですが、カラフルな色使いの可愛いキャラクター、驚きの展開は、きっと子供たちにも、そしてJKにもお気に入りとなるでしょう。

本作の特色は全編フラッシュアニメでつくられていることです。フラッシュアニメというと『秘密結社鷹の爪』が有名ですが、あの作品は意図的にチープなつくりにしているようです(「クソアニメと呼ばれて10年」という自虐的キャッチコピー)。

本作は人物のみフラッシュアニメを嵌め込んだのかと思いましたが、全編フラッシュアニメとのこと。それにしては、アサリを使った食事が実においしそうに描けていますし、街並みも水彩画のようです。フラッシュアニメの技術はここまで進んでいたのかと驚くとともに、アニメ製作の今後の方向を示すものといえましょう。

物語は、音楽好きな人魚のルーが、中学生のカイと友達になり、閉ざされていたカイの心を開きます。そしてカイのバンド仲間とも親しくなりますが、住民にルーの存在を知られてしまいます。町おこしに利用しようとする大人と、人魚は災いを引き起こすとの言い伝えからルーを捕らえようとする住民。ルーに危機が。そしてルーのパパが現われて…。

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人間と共生できると信じる人魚が、人間に裏切られながらも、人間を救うという展開になりますが、エコーするスピーカー、カセットテープ(!)といった小道具の伏線がさりげなく、巧みに張り巡らされているところにも注目です。

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人間と人魚、すなわち異人種との共存というテーマは、昨年公開されたチャウ・シンチーの『人魚姫』(16)のような世界観です。尾ひれで歩いたり、海底に船が沈んでいたり、人魚を利用してイベント開催を企む町の実力者(『人魚姫』のキティ・チャンほど凶暴ではありませんが)が出てきたりするのはチャウ・シンチーと重なりますが、実写の『人魚姫』はコメディですからギャグで話を転がしていました。本作はギャグよりも、ライブやダンス、歌で観せることに重きを置いており、ミュージカルのようなつくりです。

人魚ルーのキャラクターデザインは、小魚が泳ぐ髪など独創的で、ルーのパパのキャラもユニークです。

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脚本は『ガルパン』『映画「聲の形」』の吉田玲子と湯浅正明監督のオリジナル。コミックの映画化に依存しているアニメや実写映画が溢れている中で、オリジナル脚本で挑む姿勢は高く評価できます。そして、大人も子供も楽しめるというアニメの原点、初期の東映動画のような手作りのセル画タッチの作品にしている点でも、大味で安直なCGアニメの流れへの警鐘と受け止めるべき優れた作品です。

2016年の日本映画はアニメが席巻しました。『君の名は。』『映画「聲の形」』『この世界の片隅に』は作品の質も優れていたこれらの監督、新海誠、山田尚子、片渕須直のほかにも、日本アニメ界は世界に誇る人材の宝庫です。宮崎駿、高畑勲、庵野秀明、押井守といった巨匠、そして細田守、今敏も忘れてはなりません。

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そして湯浅正明の登場です。既に『マインド・ゲーム』(04)で注目されていましたが、長らく劇場用アニメから遠ざかっていました。それが今年4,5月に『夜は短し歩けよ乙女』(4月7日公開)と本作『夜明け告げるルーのうた』(5月19日公開)の2作を連続して放ったのです。

『マインド・ゲーム』がつくられた2004年は、宮崎駿『ハウルの動く城』、押井守『イノセンス』、大友克洋『スチームボーイ』、フル3Dライブアニメ『アップルシード』が公開されています。そういう中で、独創的で実験的な『マインド・ゲーム』は単館上映ながら注目を集めました。その湯浅正明監督が13年ぶりに、躍動感あふれる夢のようなアニメーションを届けてくれました。喜びと満足と思い出を皆様に与えてくれることでしょう。

オフィシャル・サイト http://lunouta.com/

:伊藤 孝

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