女性による女性の映画『ボンジュール、アン』は、人生の節目を迎えたあなたの物語

the photographer Eric Caro

『ボンジュール、アン』

配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES
原題:PARIS CAN WAIT
監督・脚本:エレノア・コッポラ
出演:ダイアン・レイン アルノー・ヴィアール アレック・ボールドウィン
7月7日 TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

『ボンジュール、アン』の監督エレノア・コッポラは、『地獄の黙示録』の巨匠、フランシス・フォード・コッポラの奥様。コッポラ家といえば、家族全員が映画関係者。イランのモフセン・マフマルバフ一家(フランスに亡命)は全員が映画監督だが、コッポラ・ファミリーはスケールが違う。父親のカーマインは作曲家。母親はセットデザイナー。息子のロマンと、娘のソフィアは映画監督。妹のタリア・シャイアと甥のニコラス・ケイジとジェイソン・シュワルツマンは俳優。孫のジア・コッポラまでもが監督デビューしたと思ったら、妻のエレノアも本作で監督に。いや、『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(91)というメイキングのような共同監督のドキュメンタリーだったので、本格的な長編ドラマは本作が初めて。しかも本作は、監督・脚本のエレノアをはじめ、撮影、美術、衣装、編集、音楽など主要部門のスタッフは女性が占めている。

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男社会といわれる映画の現場だが、女性も重要な部門で作品を支えてきた。撮影では、ゴダール作品などのカロリーヌ・シャンプティエ、黒沢清作品では芦澤明子が繊細なカメラワークを見せる。成瀬己喜男は水木洋子、田中澄江の脚本を得て『浮雲』や『流れる』を生み出した。そして美術は部谷京子がいる。女性の繊細さが作品に反映されていることは間違いない。だが、本作は男のつくる映画を女性が支えるのではなく、エレノアはほぼ全員女性スタッフにより作品をつくってしまった。これがどのような効果を上げただろうか。

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ストーリーはシンプル。プロデューサーの夫とカンヌ国際映画祭にやって来たアンは、そのままバカンスを楽しむつもりだったが、夫は急遽ブダペストへ飛ぶことに。空港で夫を見送った後、アンは夫の友人ジャックの車でパリに向かう。7時間で到着するはずが、ジャックの案内で寄り道ばかりの一泊二日の旅になり…。
アン(ダイアン・レイン)とジャック(アルノー・ヴィアール)のカンヌからパリまでの一泊二日ロードムービーである。旅先で、リュミール研究所、プロヴァンスの古城、水道橋、織物博物館、サント・マドレーヌ大聖堂などに寄り道、そして最高級の料理とワイン。ほとんど観光映画なのだが、映画プロデューサー(アレック・ボールドウィン)の妻アンと、夫の友人ジャックの心理的駆け引きが話を支える。
ジャックの描き方が女性目線なので、紳士的だけど下心がある優しい男というキャラクターは、男からするとちょっと嫌な奴。アンは彼の誘いを上手にかわしながら目的地に向かう。そしてパリに到着。アンを自宅に送り届けるが、ここでの二人のやり取りは単純なようで複層的な解釈が出来る。いうなれば謎が残るのだ。

女性が(左脳で)描いた男性像なので、男女により解釈に違いがあるのではないか。男から見た解釈は、精神的にアンはジャックに心を開いたと思う。一歩踏み出す、その冒険心が眠っていた女としての自我を目覚めさせたのだ。ジャックは彼女の人生を楽しくさせるという目論見に成功したのだ。ジャックがアンの夫から車で送るよう頼まれ、張り切ったジャックはアンの心を開くプランを練っていたようにも見える。アンにとって、この旅は人生の分岐点になったのだ。ジャックに出会わなかったら何も変わらない、昨日の繰り返しだろう。

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これを女性解放、女性尊重と捉えれば、ただのフェミニズム映画でしかないが、本作はジャックとアンの心理的駆け引きを、説明的なセリフを用いずに描いているところが面白い。
この物語はエレノアが、カンヌからパリへ、フランス人男性と旅することになった実体験に基づく。ナレーションを使わず、寄り道ばかりのエピソードなのに、アンの心が次第に癒され、活き活きとしてくる経過が巧みに描かれている。とても80歳とは思えぬエレノアの描写はウエットな仕上がりだ。映画監督は、高齢になるとイーストウッドやマノエル・ド・オリヴェイラのように無駄な描写がなくなり、枯れたタッチになるものだが、エレノアの若々しく華やかな作風はパワフルな家族の影響だろうか。
女性による女性のためのチャーミングな映画。二人が寄り道するコースや料理も楽しい。

オフィシャルサイト http://bonjour-anne.jp/

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