映画『ナインイレヴン 運命を分けた日』はエレベーター脱出劇。ラストは感動必至!


© 2017 Nine Eleven Movie, LLC

『ナインイレヴン 運命を分けた日』

9月9日(土)新宿武蔵野館、丸の内TOEIほか全国ロードショー
配給:シンカ 原題:9/11
2017年 アメリカ映画 90分
監督・脚本:マルティン・ギギ 脚本:スティーヴン・ゴルビオスキ
原案:パトリック・ジェームズ・カーソン 撮影:マッシモ・ツェリ
出演:チャーリー・シーン ジーナ・ガーション ルイス・ガスマン
ウッド・ハリス オルガ・フォンダ ウーピー・ゴールドバーグ
ジャクリーン・ビセット

アメリカ人にとって、「9.11」は忘れられない日となった。日本人が3.11(2011年3月11日の東日本大震災)、1.17(1995年1月17日の阪神淡路大震災)が忘れられない日であるように。
だが、9.11は自然災害ではない。侵略されたことのないアメリカがテロにより大きな犠牲者を出したのである。アメリカの国内便4機がアラブ系のグループにハイジャックされ、ワールド・トレード・センター(WTC)2棟と米国国防省(ペンタゴン)に突入、3000人以上の死者を出した。このテロの背景には、パレスチナ問題、イラン×イラク×アメリカの対立関係、アルカイダ×アメリカによるジハード(聖戦)、国家間の経済格差など複雑な問題がある。

「9.11」という原題の本作は、そういった背景には触れず、WTCのエレベーターに閉じ込められた5人がエレベーターから脱出するまでの密室劇である。
9.11で崩壊したWTCを題材にした作品は、オリヴァー・ストーン監督の『ワールド・トレード・センター』(06)や、ハイジャックされたユナイテッド93を描いたポール・グリーングラス監督の『ユナイテッド93』(06)と作品数は少なく、再現ドラマの域を出ていなった。
一方で、エレベーターに閉じ込められる映画は数多い。ルイ・マルの『死刑台のエレバーター』(58)を筆頭に、アメリカ映画『不意打ち』(64)、日本映画では『ダブルス』(01)、『ショコキ!』(01)、日本版リメイク『死刑台のエレベーター』(10)がすぐに思い浮かぶ。

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だが本作は、手垢のついた題材による新鮮味のない作品ではない。5人の貧富の差(経済格差)や夫婦間の軋轢も交えつつ、5人の結束による脱出を描いた密室劇である。
本作は『エレベーター』という戯曲を音楽家でもある映画監督マルティン・ギギが映画化したもの。
WTC北棟のエレベーターに乗り合わせた5人の男女の密室からの脱出劇。閉じ込められたエレベーターからの脱出プランが次々と失敗してゆくが、ギギはWTCに遭遇した人々のリサーチをして5人の人物像を肉付けし、富裕層、バイク便、ビルの保全管理者など、格差社会の縮図にしている。

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WTCのエレベーターが、航空機激突により階の途中で停止、外部との通信手段は、緊急コールを通じて保全管理者の同僚(ウーピー・ゴールドバーグ)と話せるが、エレベーターのことは何も分からない。エレベーター担当者は帰宅した後だった。五人は自力で脱出を試みるが、上手く行かない。ようやくフロアの隙間を見出し、一人ずつエレベーターから這い出すが、ケーブルが切れかかっている。そして落下するエレベーター。取り残されたのは誰か。そして…。

5人のアンサンブル劇だが、富豪のチャーリー・シーンが彼の出世作である『ウォール街』のマイケル・ダグラスのようなキャラクターを演じて、貧しいバイク便の黒人青年に接する。傲慢から次第に人間性を取り戻していくのだが、観る側もチャーリー・シーンを嫌な奴から次第に好感を抱くようになる。

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チャーリーの妻ジーナ・ガーションもチャーリーと離婚しようと思っていたのを、彼の良い面を発見して考え直すようになる。
ジーナの母親役は、なんとジャクリーン・ビセットで、少ない出番ながらクールで聡明な役柄。しかも相変わらず美しい。
ということで、本作は9.11映画というより人間ドラマとして見応えのある作品。
ラストシーンは、ある瞬間に終わる。感動を断ち切るようでいて、かえって余韻を残す心憎いエンディングだ。

:伊藤 孝

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