~作品賞などオスカー3冠受賞! 自分の居場所を照らす光。月光の下で美しく輝く肌。感動必至の『ムーンライト』~

© 2016 A24 Distribution, LLC

ムーンライト
MOONLIGHT

(配給 ファントム・フィルム 3月31日TOHOシネマズシャンテ ほか公開)

シングルマザー、ネグレクト、いじめ、貧困、ゲイ、麻薬中毒。
本作はこれらが盛り込まれているが、それらを訴える社会派の作品ではない。原作者(タレル・アルヴァン・マクレイニー)と監督(バリー・ジェンキンス)の二人ともが、麻薬中毒の母親に育てられたという、その自己体験に基づいた、自己探求、自分の居場所探しをテーマにした、愛と友情の物語だ。
監督、出演者のほとんどがアフリカ系黒人で、映像に色を足す手法により、黒人の肌がブロンズのように光り輝いている。原作の戯曲の原題、「月の光の下で美しいブルーに輝く」は本作のラスト、ムーンライトの下で、自分の存在を隠すように生きてきた主人公のシャロンが、心の闇を照らす友人の光により、自分の存在意義を見出すシーンを指している。

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主人公シャロンは、少年期、10代、30代初めの3部構成で描かれるが、シャロン役の3人とも素晴らしい表現力だ。無口なシャロンだから、セリフより佇まいで感情表現をしなければならない。3人の顔は全く似ていないのだが、難しいシャロンのキャラクターを見事に演じて違和感がない。

学校でいじめにあっているシャロンは内気でいつも俯き、言葉をほとんど発しない。そんなシャロンをクラスのいじめっ子は「オカマ」と罵る。ある日、いじめっ子から逃げているシャロンを、男の人が助けてくれる。その人はフアンという逞しくも優しい男で、シャロンを家に連れて帰ると、フアンの恋人のポーラが食事を作ってくれた。父と母のいる家庭の温もりを感じたのか、家に帰りたくないというシャロンをフアンは泊めてくれた。「オカマってどういうこと」とシャロンはフアンに尋ねる。「ゲイの人を罵る、差別する人が使う言葉だ」。

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シャロンを助けたフアンは、麻薬のディーラーで、母親にも麻薬を売っていた。しかし、母親は子どもの面倒をみないばかりか、フアンに貰った僅かなお金までもシャロンから取り上げてしまうのだった。シャロンはフアンの家に泊まることが多くなる。フアンの恋人テレサはシャロンの母親代わりで、フアンは守護神なのだ。
高校生になったシャロンだが、相変わらずいじめられ、母親は麻薬をやめられない。居場所のないシャロンはフアンの家に向かう。シャロンの母親は自分よりテレサに心を開いていることに我慢がならず、テレサに嫉妬していた。学校では同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった。夜の浜辺、月光の下、シャロンとケヴィンは口づけを交わす。ある日、いじめっ子がケヴィンに、シャロンを殴れと命じる。殴るケヴィン。起き上がるシャロンに倒れていろとケヴィンは言うが、幾度も起き上がるシャロン。翌朝、学校に向かったシャロンはいじめっ子の頭に椅子を振り下ろす。

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30代になったシャロンは、アトランタに引っ越していた。母親を施設に入れ、麻薬ディーラーとなって高級車を乗り回す日々を送っていた。貧困から抜け出すには、こういう生き方しかないのだろうか。体を鍛え上げて、かつての弱さは微塵も感じられない。ある日、ケヴィンから連絡があり、彼がシェフとして勤めているダイナーに向かった。ケヴィンは自分が作った料理をふるまい、シャロンを殴ったあの日のことを謝罪した。事件の後、警察に連行され、少年院に入っていたシャロンだったが、しばらくぶりにあったケヴィンは、やはり親友だった。翌日、母親のポーラに会う。麻薬中毒から抜け出した母親は、愛情をこめてシャロンを迎える。そして、またケヴィンに会いに行くのだ。

シャロンを救うフアンはシャロンにとっては善人だ。しかし彼は、母親を麻薬中毒にしている売人の元締めという悪人でもある。人間なら、善と悪の両面を持ち合わせるのは当然で、善だけで生きて行ける人はまず、いない。フアンをそういう複雑な人物にしたことで、魅力的なキャラクターになった。いうなれば隠し味の毒のようなものだろうか。フアンは第1部しか登場しないのに、強烈な印象を残す。フアンが2部、3部にも登場したらシャロンは影が薄くなったに違いない。そして、フアンを失ったことでシャロンは自立できたのではないか。
フアン役のマハーシャラ・アリ(オスカーの助演男優賞受賞)とともに、母親ポーラ役のナオミ・ハリスも『われらが背きし者』『素晴らしきかな、人生』など美しさを活かした役が多かったが、本作では麻薬中毒のネグレクトという初の汚れ役。第3部では優しい母親の表情も見せる難役だが、「監督は自由に演じさせてくれた」と語っている。

本作を観た直後は凄い映画を観た、と興奮していたが、しばらくしてから激しい感動が押し寄せ、帰りの車中で涙が溢れてきて困った。

オフィシャル・サイト http://moonlight-movie.jp/

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