~故郷に帰りたい! 流転の皇女『ラスト・プリンセス』徳恵翁主の悲劇~

2016 DCG PLUS & LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

『ラスト・プリンセス ―大韓帝国最後の皇女―』

配給:ハーク 2016年 韓国 127分
6月24日(土) シネマート新宿ほか全国順次公開
監督・共同脚本:ホ・ジノ
原作:クォン・ビヨン「朝鮮王朝最後の皇女徳恵翁主」
出演:ソン・イェジン パク・ヘイル ユン・ジェムン ラ・ミラン

植民地、統合は悲劇を招く。王室も母国語も失われる。ハワイ王朝最後の王女カイウラニを描いた『プリンセス・カイウラニ』(09)は、ハワイ王国がアメリカに統合された悲劇であった。そして本作『ラスト・プリンセス -大韓帝国最後の皇女―』は、日本の統治下の朝鮮、大韓帝国の皇女、徳恵翁主の波乱の人生を描いた作品で、カイウラニ同様、歴史に翻弄されたひとりの女性の実話を映画化した。

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徳恵が生まれたのは日韓併合から2年後の1912年であった。13歳になった23年に、日本の学習院に通うようになる。日本側は政略結婚を画策していたが、環境の激変から精神的に不安定になる。19歳で対馬藩主の血筋の宗武志伯爵と結婚。宗は思いやりのある人物であったが、徳恵は精神を病み、松沢病院に長期入院することになる。彼女は戦後も病院で暮らさざるを得なかったのは、韓国の李承晩大統領が王家の人々を警戒し、帰国を許さなかったためである。彼女が精神病院から救出されたのは李承晩がクーデターにより失脚してからで、62年にようやく帰国。89年に亡くなるまで、故郷で暮らすことが出来たのである。

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先頃公開された『お嬢さん』と同じく、日本を直接的に悪役にしているわけではなく、同胞の李王職長官ハン・テクス(ユン・ジェムン)が一人で悪役を引き受けている。醜いほど日本にへつらい、翁主を利用するハン。当時の親日派をデフォルメして描いているのか、本当にこういう人物が多かったのかはわからないが、翁主を日本に行かせるのも、戦後故郷へ帰さなかったのもハンの暗躍による。
徳恵翁主が精神に変調を来す大きな原因は、故郷に帰れなかったからである。タルコフスキーの『ノスタルジア』は、故郷ロシアに帰ることが叶わず、主人公はイタリアで病死する。モーツァルトはウィーンに留まりながらも、「ザルツブルグに帰りたい」と日記に幾度も綴っている。しかし、徳恵翁主の故郷に帰りたいという願いが叶わないのは、統治下から解放されながらも、王家の人々を警戒する李承晩の思惑によるものと言われており、帰国は45年の終戦から62年の精神病院から救出まで待たなければならなかった。過酷な運命に翻弄された皇女であった。

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監督のホ・ジノは、初期の『八月のクリスマス』、『春の日は過ぎゆく』のような、ストイックな作風ではなく、自分の存在を回復させるために闘う翁主と、彼女を守ろうとする独立運動家のジャンハン(パク・ヘイル)のアイデンティティーを描いている。しかし、独立運動グループによる要人暗殺シーンから銃撃戦、亡命失敗に至る描写は、作品の品格を損ねているように思う。プロデューサーの意向もあったのだろうが、そのようなシーンをつくらなくても十分に観客を引き付ける力を備えた作品である。
ヒロインのソン・イェジンは、『私の頭の中の消しゴム』(04)で観客の紅涙を絞り、『パイレーツ』(14)では明るく勇ましい役まで、幅広いキャラクターを演じてきた。本作はナチュラルな美貌と、運命に受身のようで、実は意志の強さを密かに持続していることを感動的な演技で表現している。

ところで、『お嬢さん』でも、松沢病院が出てきたが、当時朝鮮では日本の精神病院がかなり悪用されていたことをうかがわせる。しかし、松沢病院は1901年に病院改革を実施している。拘束具の使用禁止、室外運動の自由化など患者処遇、治療方針を大幅に改善していることはあまり知られていない。ただし、これは松沢病院だけの話。わが国の多くの精神病院は現在も牢獄型収容施設であり、一部病院では暴力と過剰投薬が問題になっている。

公式サイト http://lastprincess.info/



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