映画『ブルックリン』を女性目線で徹底議論!【※ネタバレ有】

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『ブルックリン』
公開:7月1日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

「ブランシュシュ」映画対談。第1回は7月1日公開の女性映画『ブルックリン』です。アカデミー賞®作品賞、脚色賞、主演女優賞ノミネートをはじめ、数々の受賞に輝く『ブルックリン』。観てきたばかりの「ブランシュシュ」スタッフ、既婚の夏子さん(仮名)、未婚の美弥子さん(仮名)による女性の視点での感想を聞いてみました。

※この記事にはストーリーの重要なネタバレを含みます

ストーリー

1950年代のアイルランド。小さな食料品店で働いているエイリシュ(シアーシャ・ローナン)は、偏見だらけで口うるさい店主に反感を覚えているが、他に働き口はない。しかし優しい姉がアメリカで働くチャンスを与えてくれる。ニューヨークに着いたエイリシュは、アイルランド移民が多く住むブルックリンで暮らすことに。昼は高級デパートで売り子として働き、夜はブルックリン大学の会計士コースで学ぶ日々。ある日、ダンスパーティーでイタリア移民の青年トニーと出会い、次第に充実した日々を送るようになるが家族の悲報が届き、故郷に帰るエイリシュ。アイルランドに帰郷した彼女を待ち受けていたのは、ジムとの運命的な再会、そしてもう一つの幸せな人生だった・・・。

監督:ジョン・クローリー 原作:コルム・トビーン 脚色:ニック・ホーンビィ
出演:シアーシャ・ローナン ドーナル・グリーソン エモリー・コーエン

―――まず、『ブルックリン』を観て、作品全体の感想はどうでしたか。

夏子:女性映画というより、人間描写の深い作品ですね。でも表現方法がもう一工夫あってもいいかな、と思いました。

美弥子:心理描写が少ない表現方法ですよね。ナレーションや台詞で説明しないから、解釈が一元的ではない。少しわかりづらい場面もあるかもしれませんが、観客はそれぞれ考える面白さがありますね。作り手が観客を信頼している作品だと思います。

夏子:女性を描いているけれど、時代と地域性により女性の生き方の選択は違う。日本的な見方をすれば、ヒロインは姉を失ったことで家族のためにアイルランドに残る道を選ぶのではないでしょうか。

美弥子:わたしもそう思います。日本だったら、世間体を過剰に気にしたり、村社会のような意識が強かったりする。だからジムとの仲が順調に進んでいたのに断るとなると、お母さんは周囲の目を気にして必死で引き留めようとする結末になっていたのではないでしょうか。最後はブルックリンに戻って、トニーと一緒になってよかった。

―――なかには、何でブルックリンに戻ってしまうのか、という声もあるようです。

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美弥子:いやー、私はトニーでよかったと思います。
確かに色々といい条件がジムにはそろっていましたが、エイリシュの台詞にもあった通り、彼は遅かったと思います。恋愛はタイミングとよく言われるように、最初のダンスパーティーで誘わなかった時点で、個人的にジムではなかったと思います。

夏子:アイルランドのジムは、裕福で誠実、結婚しても妻に苦労はさせないと思うけど、退屈な人だと思う。
トニーだと、暮らしは貧しくて、苦労は多いと思うけど、楽しい家庭が築けそう。退屈はしない。毎日が充実していると思う。

美弥子:苦労も幸せのうちですよね。でも、世界観が日本と違いますので、トニーの一家が貧しいとは思いませんでした。

夏子:配水工という職業は、見えないところを直す地味な仕事で、トニーの人柄を象徴していると思います。

―――ファッションの色についてはどう思いましたか。

夏子:季節の違いで、コートとブラウスになっているので、色が暗喩になっているとは思いませんでした。ブルックリンは冬だったのでコートなのでしょうね。
映像は綺麗でした。アイルランドの牧歌的な地域と、ニューヨークのブルックリンという雑然とした都会の対比。そしてトニーとジムという対照的な男性。前向きに生きるヒロインと薄幸の姉。みんな対比で描いていますね。

美弥子:私は個人的にこの時代のファッションが好きなので素敵だと思いました。背景も素晴らしかったです。レトロとか、アンティークとか、そういう雰囲気が好きな人には特に映像だけでもおすすめだと思います。

―――アイルランドに帰る直前、トニーと結婚するわけですが、アイルランドでジムと再会し、トニーを忘れてしまうヒロインのことはどう思いましたか。結婚した男のことを忘れられるものだろうかと、男からすると思います。ヒロインはとんでもない女だという男性もいます。

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夏子:女性は間違いなく身近な人に魅かれる。男性には理解できないかもしれませんが、これは当然のことです。だから社内恋愛があるわけです。
自分だったらどちらを選ぶかといえば、どっちも好みではないのですが(笑)、教養の有無で見ると、ジムのほうがありそう。お金より知性ですね。
バブル以前の考え方だと、女性は自身の価値ではなく、捕まえる男の価値が重要。女の価値を高めるのが男性だというような風潮だったと思います。
私は結婚とか婚約といった形にこだわりません。ですから、故郷に帰る前に、何で結婚しちゃうのかな、と思いました。

美弥子:トニーがプロポーズに踏み切ったのは、焦りが見て取れましたね。故郷に戻ったらもう戻ってこないんじゃないかという不安も。

夏子:トニーは一途だけれど、結婚という契約で女性を縛ろうとする。私から見ると、鬱陶しい男ですね。結婚しようというのは愛情表現かもしれないけど、独占欲でもありますからね。ダンス会場でエイリシュを誘うときも、心の隙間に入ってくるような感じがしました。
この映画は、時代背景が重要で、ふたりの男を彼女が選んだのは、ニューヨークでは寂しい日々を送っていたからトニーに魅かれた。そして姉さんの死でショックを受けているときジムが登場する。何かの引き金で恋愛は始まるから、どちらも必然だと思いました。
彼女は、トニーと結婚していなかったら、トニーのことはきれいに忘れてしまったと思います。
ブルックリンでは、国が変わり、今までと生活様式が変わりました。田舎者というコンプレックスもあるだろうし、自分を確立していかなければならない。しかし、このヒロインはそれほど社交的ではない。恋愛ドラマというより、彼女の必死さが伝わってきましたね。自分の思うように生きるのがいちばんよい。だから彼女自身が本当に好きな伴侶を選べたのならそれで幸せだと思います。

美弥子:トニーもジムも、偶然にもエイリシュの心の隙に入ったからこそ、大きな存在になったんですよね。ただ、結婚という契約を交わしてしまった以上、故郷でのエイリシュの行動は浮気とも取れてしまうと思います、そういう点が、エイリシュを批判する人には引っかかるのでしょうね。生き方を選ぶ重要な分岐点でしたが、一歩間違えばどちらも手に入らない恐れはあると思います。

―――ヒロインのエイリシュは、ブルックリンで会計士の勉強をしたりして、自分を高めようとする意思は強いですね。反面、ダンス会場でモテない友達を置いてトニーと外に出てしまう残酷な一面もあります。

夏子:普通に女子はこういうことをしますよ。友達よりも男を選びます。いい男を捕まえるために会社を選ぶ女子は結構いますよ。ですから、エイリシュの生き方は理解できるし、アンチモラルでもない、普通のことです。これは男女の違いだけでなく、世代の違いもあると思います。20代と40代の恋愛観はかなり違います。

美弥子:その場面もそうですが、エイリシュの寮生に対する感情が初見ではあまり見えなかったですね。寮の険悪なお姉さん2人に、悪い印象すら持ち得たのに、なぜか仲良くなっている。寮から追い出されたくないがために、彼女たちに気に入られようと努力したのでしょうか?

夏子:そういう、主体的ではないけれどエイリシュの内面の強さが物語の良いバランスをとっているのでしょうね。

―――最後に、お気に入りのキャラクターがおりましたら。

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美弥子:女性は逞しく描かれていました。個人的に気に入ったのは、デパートの先輩です。

夏子:そう、なんかカッコよかった。
切ないな、と思ったのはアイルランドのお姉さん。わが国でも、親の介護で苦労し、自分の人生を犠牲にしている人はいますね。

美弥子:お姉さんの最後は切ないですね。自分の病気を隠してまで、家族の幸せを優先した…。まさに犠牲という感じでしたね。
ただ、会計士としてお仕事に恵まれ、職場でも頼られる存在だったように思います。ですので、彼女自身が仕事を楽しくやれていたのだとすれば、それはそれで一つの幸せだったのではないかと思います。

日本映画はコミックの映画化作品が氾濫しているだけに、こういった繊細で奥深い女性映画の満足度は高いですね。皆さんもぜひ劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。



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